~銀婚を迎えた夏~ ㊷

娘の心遣い

娘が一人暮らしを始めたこの春、

頻繁に連絡を入れてきたものだ。

寂しい寂しいと。

 

今は、

私が寂しがっていないか、娘から頻繁に連絡が入る。

 

娘の心遣いが嬉しい。

 

私としては、これを機に大学での様子や彼氏とのその後など、突っ込んで聞きたくなってしまう。

 

でも、それは ほどほどにして

娘からの質問に応じた。

 

朝食は何を食べたか、

暑さ対策はどうしているかなど、そんなことを。

 

娘からの質問内容は、この春、私が娘にした質問ばかりだった。

 

苦笑いのような、でも、胸が温かくなるような、そんな笑みがこぼれた。

 

日常のひと手間

娘のおかげなのか、

健一の不在について 特に不自由や寂しさを感じることもなく、毎日が過ぎていく。

 

娘とのやり取りも徐々に頻度が減り、

息子が帰省する日が近づいてきた。

 

正直なところ、

我が家は、日常的には掃除や片付けが行き届いていなかった。

 

年に一度のホームパーティーを機に、

家族総出で大掃除していたのが実情だった。

 

でも、一人暮らしになった今は、

使ったものを元に戻すだとか、

作業後にちょっとした掃除をするなど、日常での「ちょっとしたひと手間」を実行できている。

 

息子の帰省

息子が来た。

 

大掃除後の我が家とは またちょっと違う、

そこそこ整然とした我が家を見て、意外そうな表情をしていた。

 

近況について会話すると、

就職(内定)先の人脈と交流し、

学生でありながら既に社会人としての目線を持っているようで、

息子はとても大人びて見えた。

 

家のネット環境の不具合や、インターホンの接続、

ガタついた戸の調整など、

私には対処できなかったことを サクサク解決してくれた。

 

大人びた息子

健一のことを話題にしながらも、

以前のように、「期待に応えられない息子でごめん」のような表情は感じられない。

 

たくましく成長した息子に、

私は大きな安堵感と、そして寂しさを感じた。

 

そして、「また、ちょくちょく来るから」と言い、

息子は帰って行った。

 

私はまた、この家にひとり。

 

寂しい。とても寂しい。

 

娘が私に対してそうしたように、

娘にそれを訴えたくなったが、なんとか やり過ごした。

 

生存確認

久しぶりに、健一のSNSを見た。

 

相変わらずの頻回投稿で、反応者も多い人気者ぶりだ。

 

「奥さんって、このページ見てるの?」と、

誰かのコメント。

 

それに対し「時々チェックしてるみたいよ」と、健一。

 

そういえば以前、誰かとのやりとりで

旅先から妻に連絡を入れないことについて、

「投稿を見れば生存確認も安全確認もできる」と、

応えていた健一。

 

私は、息子が大学へ帰って行ったばかりで

寂しさを募らせていたが、

健一不在の寂しさは 感じていないままだ。

 

私は、「ちょうどいいよね」とつぶやき、

まだ見終えていない部分を ざっとスクロールさせて

閲覧を終えた。

 

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 2-① うみは あらうみ